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daybreak 12/04 Chapter-01 three poisons(6)

【6】

「頼むぞ!」
 瞬間、アルバートをカンバヤシに預け、ヤズマは走った。
 目の前の鬼たちが殺気を放っているのは明らかだ。このままでは食い殺される。
話し合いなど、出来そうもない。
 そう一瞬で判断し、彼は生き残るために駆けた。
 状況を把握した周囲の兵たちも、それぞれに行動を始める。
 怒号と銃声を背にし、ヤズマは一直線に向かう。
 倒れている〈ソードオーガ〉へと。距離的に見て、一番近い位置にあったのがその機体だった。
 幸い、火は入っている。開きっ放しのコクピットに人影はない。
 飛び込むように滑り込み、シートに置きっ放しになっていたヘッドセットを装着して、コンソールに指を滑らせる。
各チェックは再起動までの最短時間を優先させ、必要最小限のシークエンス以外はすべてカット。
各部ダメージを計測。稼動率七十五パーセント。
内蔵火器残弾。ゼロ。
各種センサー。問題なし。
「動けっ!」
 関節のロックを外し、ヤズマは操縦桿を引く。その指令に応え、〈ソードオーガ〉は身を起こした。
 センサーが戦場となったハンガー内を走査し、モニターに表示させる。
 兵たちを残存兵力と認識。画面下部に随時表示。
 目の前の三体を敵性体と認識。データベースから敵機情報を検索。該当なし。
 アンノウンと表示された結果を見て、ヤズマは歯噛みする。
 やはり、データはない。やりづらい相手だ。
 しかし、泣き言は言っていられない。まだ、自分は死にたくはないし、面識がないとはいえ、鬼たちと戦っている兵士たちを見殺しにはしたくないのだ。
 そばに落ちていたマケッド・ドール用の大剣を拾い、〈ソードオーガ〉は駆けた。
 幸い、敵は兵士の銃撃に気を取られ、三体がバラバラの方向を向いている。
 まずは明後日の方向を向いている正面の鬼。こいつを無力化させ、数を減らす!
 ヤズマの乗る〈ソードオーガ〉の起動に気づき、兵たちは進路を開ける。気を引くため、銃撃を続けることは忘れていない。
 気合一閃、ヤズマは大剣を横振りにした。この剣の重量と馬力のある〈ソードオーガ〉の出力なら、相手をぶつ切りに出来ると踏んだ。
「なっ!?」
 だが、その切っ先は相手の体まで届かなかった。
 その数センチ手前で、空間が歪み、大剣がはじかれる。
 ――なんだ、今のは!
 疑問が湧いたが、その答えを考えるより先に体が動く。
 ヤズマの〈ソードオーガ〉に気づいた相手が、逆襲の鉈を振るうのを紙一重で避ける。
 避け切ったつもりだった。
 コクピット内に警報が鳴る。
 胸部装甲をえぐられた。かわしきれなかったのだ。
 くそ、機体が重い――!
 元から万全な状態ではなかったが、ヤズマが乗り慣れた〈ヴァン・ガード〉やそのベース機である〈セイバーフェンリル〉に比べ、〈ソードオーガ〉は装甲が厚い分、重い。一発の破壊力はこちらが上だが、運動性が鈍り、感覚が掴みきれない。
 さらに悪いことに、今の一撃で、目の前の鬼は自分を敵だと認識してしまった。向き直った巨体からは、怒りにも似た殺気が揺らいでいる。
 悲鳴が上がった。
 対峙した以外の二体の鬼が、兵たちを踏みつぶしている。
 ヤズマのときと同様、彼らの銃弾は鬼の皮膚に触れようとした瞬間、空間が歪み弾かれてしまい、傷をつけられない。
 だが。
「だからってなあ!」
 鬼の咆哮に負けず、ヤズマは叫んだ。
 スロットルを一気に全開へ。全力でぶつかれば、吹き飛ばすことくらいは!
 相手の鉈をかわそうともせず、大剣を勢いに乗せて振るう。
 結果は同じだ。こちらの大剣は弾かれ、相手の鉈がソードオーガの左手を斬り飛ばした。狂ったように警報が鳴り、被害状況がディスプレイに明滅する。
 だが、ヤズマは引くわけにはいかなかった。
 このままでは、殺される。死にたくはない。だが。
「目の前で人が死んでるんだよ!」
 兵たちが成す術もなく殺されていく。
 今、一人踏みつぶされた。
 今、二人鉈で薙ぎ払われた。
 今、三人が壁ごと潰された。
 そんな姿を見て、何も出来なくても。
 何かせずにはいられない。
 自分は、〈マケッド・ドール〉を動かすことができる。
 何もしないより、それをしたほうが、自分が、そして周りの誰かが生き残る確率が上がる。
 ならば、自分は戦わなければならない。
 自分のために。そして兵のために。
 今、ここで〈マケッド・ドール〉を動かせるのは自分だけなのだ。
 壁を破り外へ出ようとしている鬼を見つけ、ヤズマは駆けた。
 愛機ほどの速度が出なくてもいい。走ってくれ!
 相対した鬼の鉈を、大剣を盾にして防ぎ、跳躍する。
 距離はそう遠くない。もとより、狭いハンガーだったのだ。
 ひと飛びで鬼に肉薄し、外へ出ようとしていたもう一体のその体へ体当たりをかます。
 日の射した外に、粉塵が散った。
 光度の違いに視界が明滅する。
 その視界の端に、人影。
 モニターの隅に誰かが映っていた。
 三人だ。
 一人は、先ほど外へ出て行ったフレデリカ。
 あとの二人は知らない。だが、軍属ではないだろう。旅人がよく使うマントコートを着た男女だ。
 男に抱きかかえられた小柄な影はまだ若い。少女だ。茫然とこちらに視線を向けたその顔は、恐怖にひきつっている。死に怯える、その顔。
 それが見知ったある少女の顔と重なり――。
 一瞬のことだった。
 警報がヤズマを戦場に引き戻し、〈ソードオーガ〉の右手を振り上げさせる。
 体当たりし、そのまま馬乗りになり下敷きになっていた目の前の鬼が、白目を見開いた。
 その顔めがけて、ヤズマの駆る〈ソードオーガ〉は折れた大剣を振り下ろした。
 衝撃が周囲を揺らす。
 仕留めた、と一瞬思ったが、そこまでだ。
 吹き飛んだのはヤズマのほうだった。
 激しい衝撃がコクピットを襲い、ハッチが吹き飛ぶ。
 そのまま、ヤズマの体は機体から放り出された。
 体を地面に強打し、息が詰まる。
 視界が利かない。
 よろよろと起き上がろうとして、また崩れる。片膝をつくのが精いっぱいだった。
 後ろからショート音が聞こえる。
 さっきまで乗っていた〈ソードオーガ〉のものだろう。
 このままでは、終わってしまう。
 だめだ。まだだ。
 まだ、死ぬわけには……
 よろめきつつ立ち上がろうとするが、間に合わない。
 くそ――。
 心が折れかけたときだった。
 誰かに担ぎあげられた。
 瞬時に起こる爆風。
 ようやく霞みながらも回復してきた視界に、自分を抱えている男の横顔が写った。
 外に飛び出したとき、少女を抱えていた男だ。
 爆風に揺られる長い前髪。
 その隙間から、左目だけ紫色の瞳が見えた。
「動けるか、軍人」
 紫の目が自分を見、無愛想な声が問う。
 ヤズマが答えたのは、爆風が収まり、長い髪がその左目を隠してからだった。
「……ああ」
 体のあちこちが痛むが、なんとか我慢は出来る。
「なら走れ、奴がこっちを狙うぞ」
 鬼のことを言っているのだろう。言うが早いか、男はヤズマを置いて走る。
 視界の隅には、同じようにフレデリカが先ほどの少女を抱えて男と同じ方向に走る姿が見えた。
 鬼は〈ソードオーガ〉の爆炎に気を取られている。あまり知能は高くないらしい。
 なら、この場は後にするのが一番だ。
 まだ中に二体の鬼がいるから危険かもしれないが、新しい機体を探しに、とりあえずハンガーへ……。
 男たちも同様の考えを持ったのだろうか。そうでなくとも、平地でぼうっと突っ立っているよりはいい。亀裂の入ったハンガーへ向かおうとしていた。
 そのとき、
「フレデリカさん!」
 少年の叫びが、鬼の気を引いた。
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三日月幻夜

Author:三日月幻夜
よく「雰囲気大分違うけど、同じ人が書いたの?」って言われます。
色々あるので見てってください。

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