スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

daybreak 12/04 Chapter-01 three poisons(8)

【8】

「少年……」
 自分を呼ぶ声に気づき、ナガルは振り向いた。
 血まみれになったリキが、ナガルを呼んでいる。
 駆け寄ると、リキは荒い息を吐きながら、必死で起き上がり、肩を掴んだ。
 ギリギリと食い込む指。痛みに顔をしかめるナガルに、リキは言う。
「いいか……あれに乗るんだ」
 目の前の軍人が何を言っているのか分からない。
 あれ……〈マケッド・ドール〉に?
 どうやって? 軍人でもなく、パイロット訓練など受けていないどころか、どうやって動いているのかさえ知らないのに。
 そんなものに乗ってどうする? 直接でなく、コクピットの中でひしゃげて死ねとでも言うのだろうか。
「そんな……僕はマケッドなんか乗れない! それより手当てを……」
「いいから聞け!」
 パニックになるナガルに、リキは荒い息で一喝する。
 血は体のあちこちから流れている。それでもリキはナガルの肩を離さなかった。
「《イェスラ》なら大丈夫だ……説明してやる時間はないが……」
「でも!」
 自分が〈マケッド・ドール〉に乗る? どうやって? どうして? そうして何をしろというんだ。
 ナガルは目を伏せる。目の前の軍人の顔を見ることができなかった。
 怖くて、無力さが悔しくて。
 どうしてこんなにも自分は小さいのか。
 いざという時、何も出来ないのか。
 知らず、涙が出た。
 情けない――
「本当なら、俺が乗らなければならなかった……だが」
 そこでリキは咳き込みながら、ナガルの肩を放し、また手を置いた。
 軍人らしからぬ、優しい置き方。その肩の感触に、ナガルは伏せていた目を上げた。
 寡黙そうなリキの顔は、頭から血を流し、死相を浮かべながら、それでも微笑んでいた。激痛が身体を襲っているはずなのに、ナガルを奮い立たせようとして、それを隠している。
「説明してやりたいが……時間がない。だが、こいつは絶対に今この場所でもっとも安全だ。乗り込めば、後は勝手にやってくれる」
 言いながら、リキは軍服のポケットから何かを取り出し、ナガルに握らせる。
 二本の線が螺旋状に絡まりあう、鈍色のバンクルだった。
「これをつければ、イェスラは、お前を認識す、する。あ、あとは……」
 そこで、リキは大きく咳き込み――血を吐いた。
 ナガルの頬に、真っ赤な液体が飛び散る。
 そのまま、かろうじてバランスを取っていたリキの体は、ナガルをかすめるようにして崩れ落ちた。
「すまん……お前のような年のいかない子供を……巻き込み……たくは……な……か…………」
 それが最後の言葉となった。その目は光を失い、意思の消えたそれがただ虚ろに光を反射するだけ。
 人が、ただのものになった。
 息を呑み、それでもナガルは身を起こす。
 まだ膝は震えていて、体は恐怖に縛られて言葉も出ない。
 だが、走った。
 リキの言葉に従い、ただ走った。
 倒れたまま微動だにしない〈マケッド・ドール〉――《イェスラ》の元へと。
 バンクルを左手にはめる。
 機体のそばまで走り寄ると、ハッチがひとりでに開いた。
 横倒しのシートに無理やり身体を固定し、ベルトを装着する。
 走り寄ったときと同様、ハッチは自動で閉じた。
 一瞬の闇の後、駆動音とともに正面の小さなモニターの灯りがコクピット内を照らす。
(どうやって外を見るんだ……?)
 そう思い、暗いコクピットを見回す。何かスイッチはないかと思ったからだ。
 しかし、前面にトリガーとスイッチがついた操縦桿が一対、ちょうど手を伸ばせば届く位置にある。ナガルに判別できる機器はそれくらいだった。
 焦りにナガルがコクピット内を見回していると、不意に中央のモニターに文字が灯る。
 “start up”
 瞬間、マシンの駆動音とAIの音声が矢継ぎ早に機体の状態をチェックしていく。
 OS、起動確認。
 戦闘領域内、敵性体、三。
 機体状況、ダメージ6%、戦闘行動に支障なし。
 パイロット登録、なし。
 機体保持を優先、緊急コードで稼動開始。
 搭乗者の起動キー装着を確認。
 イニシャライズ。
 スキャン、開始。
 最後の一文の明滅が終わる瞬間、ナガルを強烈なめまいが襲った。
 思わず苦鳴を漏らす。
 それはまるで、体の中をかき回されるような、体から何かを引きずり出されるような、不快な感覚だった。
 時間が停滞していく。
 すべてがゆっくりと流れていく。
 心拍数が上がっていく。
 だが、めまいと吐き気は容赦なくナガルの体を襲い――不意に、止まった。
 霞む瞳を擦り、必死に目の前のモニターに目をやる。
 そこには、先ほどまではなかったはずの一文が点滅を繰り返していた。
 “moha”
「モー……ハ?」
 つぶやくと同時に、中央の小型モニターから光が消え、代わりにコクピット全面が外界をクリアに映し出す。
 外界を寸分違わぬ色彩で映し出し、《イェスラ》は動力炉を稼動させた。
 オートで機体が起き上がる。
 緩慢としながら、世界は震え、ナガルに外を示した。
 瓦礫が落ち、爆風が吹き荒れ、炎が上がる。
 怒号も、悲鳴も、銃声も、すべてがコクピット内に響く。
 モニター正面に、揺らめく影。
 そこには、狩を幾度となく邪魔された鬼が、憎悪を揺らめかせ、瓦礫を払い落としながら立ち上がっていた。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

ご訪問ありがとうございます!
プロフィール
気ままに更新してます。 気にいっていただけるものがあったならこれ幸いです。

三日月幻夜

Author:三日月幻夜
よく「雰囲気大分違うけど、同じ人が書いたの?」って言われます。
色々あるので見てってください。

最新記事
最新コメント
カテゴリ(ツリーが開きます)
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

RSSリンクの表示
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。