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なつへの扉【9】

なつへの扉【9】


 ――にゃー。
 ピートの鳴き声に目を開けると、僕は公園にいた。
 あたりには、雪が積もっているが、降り止んでいる。
 戻ってきたらしい。
 さっきまで流美姉ちゃんが座っていた隣は、その名残すらなく、積もった雪がただそこにあった。
 ピートもいない。
 たった一人。
 再会がそうだったように、別れも突然訪れた。
 ただ、悲しくはない。
 流美姉ちゃんにちゃんと別れを言えなかったのは切なかったけど、でも、子供の頃言えなかったことを、僕は言えた。
 それに――。
「収穂!」
 公園の入り口から、僕を呼ぶ声。
 見ると、そこには肩で息をする琴子がいた。
「ちょっと収穂! 何してるの!」
「え、何って……」
 あまりの剣幕に、僕はすくみ上がる。
 いや、この悪寒は汗を吸った服が冷えたせいだ。
 今は、冬なのだ。
「上着も着ないで外に出て! もう3時だよ、分かってるの!」
 知らなかった、とはさすがに言えない。猫に連れられてタイムスリップしてました、なんて言ったら、どんな顔をされるかわかったものではない。
「部屋を出てからちっとも帰ってこないし、上着も置いたまま! 家にはいないし、外に出たら足跡があるし! そんな薄着で外で何してるのよ!」
 どうやら、心配されているらしい。見れば、駆け寄ってくる琴子は、パジャマにコートという、ちぐはぐな格好だ。
「あ、いや……」
 どう説明しようかと言い淀みながら琴子のそばまでいくと、いきなり殴られた。
「いてっ!」
 いや、痛いとかいうレベルじゃない。グーで殴られているのだ。
「何するん……」
「ごめん」
 抗議より先に謝られて、僕は言葉を飲み込む。
「別に、こんなことさせるほど困らせようなんて思ってなかった。ただ、なんか実家に帰ってきてから、収穂は流美さんのことばっかり話してるから、それが……」
 それきり、琴子は俯いた。僕が夜歩きをして、深夜まで帰ってこないのに責任を感じているらしい。
 確かに、外に出たのは琴子との一件があったからだ。でも、すぐに帰るつもりだった。少しどうしたらいいのか分からなくなって、外の空気を吸いに行こうと思って。
 そしたら、タイムスリップをして、戻ってきたのがこんな時間で。
 でも、理由はともあれ、彼女に心配をかけてしまったのは事実。
 謝るのは僕であるはずで、琴子に責任はない。
 流美姉ちゃんのことを懐かしく思うあまり、僕は琴子のことをどこかないがしろにしていたのだから。
「いや、僕こそごめん……」
 いろんなことに対して。
 初めて僕の部屋に入ったとき、琴子は僕に抱きついて「君は、私のものなんだからね」と言った。
 そうだ。今は、僕は琴子と一緒に歩き出そうとしている。
 流美姉ちゃんと再会して、思いが分かった今は。
 僕は流美姉ちゃんにしたのとはまた違った意味で、彼女の震える肩を抱きとめた。
「ごめん、琴子。ちょっと、気持ちを整理しようと思っただけなんだ」
「……私と結婚するの、嫌になった?」
「まさか。流美姉ちゃんじゃなく、僕は琴子と結婚するに決まってる」
 そうだ。僕は琴子が好きなんだ。
 流美姉ちゃんとは違った意味で。だから、今日でモヤモヤと燻っていた感情は、終わりにしよう。
 ちゃんと別れは言えなかったにしろ、流美姉ちゃんと、ちゃんと話したじゃないか。
 彼女の思いも、分かったじゃないか。
 だから。
「結婚しよう、琴子」
 なんて間の抜けた台詞を、僕は彼女に言った。
「……なによ、今更」
「嫌?」
「……嫌じゃない」
 パジャマ姿の琴子は、僕より寒そうだった。だからもっと強く抱きしめたのだけど。
「う、汗臭い」
 なんだか、締まらない。
「まあ、夏に行ってきた。夏への扉を開いたんだ」
「なにそれ?」
 首を傾げる琴子に答えず、僕はただ、帰ろうと言って琴子の手を引き、公園を後にした。
 去り際、僕はもう一度だけ公園を振り返る。
 ピートの声は、もう聞こえない。
 ――ありがとう、ピート。
 僕は彼に対して、心の中でつぶやいた。


〉〉〉なつへの扉【10】へ続く。
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よく「雰囲気大分違うけど、同じ人が書いたの?」って言われます。
色々あるので見てってください。

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