スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

なつへの扉【6】

なつへの扉【6】


 流美姉ちゃんは、病気だった。
 助かるわけない、治らない、それこそ死ぬまで付き合わなきゃいけない、辛い病気。運動することも出来なくて、いつも静かにしていなきゃいけないような、そんな生活を強いられていた。
 だから、姉ちゃんはいつも家にいて、仕事に就かず、家のベランダで煙草を吸って外を眺めていたんだ。
 どうせ治らないってみんな分かっていて、諦めに似た気持ちで煙草を吸うのを止めさせようとはしなかった。それくらいのわがままで気が紛れるのなら、と思っていた。僕がもっと大きくなってから、母さんはそんな風につぶやいたことがあった。
「収穂がいてくれて助かるよ」
 いつだったか、姉ちゃんがそんなことを言って僕の頭をなでた。
 小さい頃の僕はその意味がわからなくて、聞き返した。
「どうして?」って。
 だって、僕は何か流美姉ちゃんが喜ぶようなことをした記憶はなかったし、実際、その日はまたいつものように姉ちゃんとポーカーをしただけで、いつもどおりのことしかなかったもの。
「収穂がいてくれるから、だよ」
 ただ、笑って姉ちゃんはそう繰り返した。
「収穂がいてくれて、幸せだった」
 僕はただ頭を撫でられていることを選んだ。どうしたらいいか、分からなかったから。
 その後に言った言葉の意味も。
 でも、そのとき姉ちゃんのことが分かっていても、たぶん何も出来なかったんだと思う。
 だって、姉ちゃんは一度結婚して、好きな人と一緒になれたのに、病気が原因で子供が産めないからと別れなければならなかったから。
 嫁ぎ先の家から、後継ぎが大事だって。子供が出来ないとだめだって。家の名を残さなきゃいけないんだって。
 そうみんなに言われて、別れて戻ってきた。
 周囲はそんな姉ちゃんに勝手な憶測を立てて、勝手な噂を立てた。
 姉ちゃんは悪くないのに、姉ちゃんの体のこと、姉ちゃんが別れなきゃいけなかったこと、みんな尾ひれをつけて。
 自分達だけが笑えるよう。姉ちゃんの気持ちなんか知らずに、気にもしないで。
 勝手で、本当に身勝手で、意地汚い噂ばっかり。
 後ろ指差される姉ちゃんは、だから家から出ようとしないで、時々来る野良猫とだけ遊んでいた。
 夜にならないと散歩にも出かけなかった。
 僕とだけ、遊んでくれた。
 父さんも母さんも、身寄りのない姉ちゃんを家に迎えてくれて、優しいとは思う。
 だけど、姉ちゃんをそんな意地悪な噂から守ろうとはしなかった。
 その噂を、肯定していたんじゃないだろうか。
 姉ちゃんひとりを犠牲にして、姉ちゃんを人身御供にして、自分達も困ってるんだって態度を外に出るたびに出して。
 周囲から外れないようにしていたんじゃないだろうか。
 だから、いつまでもいつまでも、姉ちゃんのこと、触れなかった。
 僕ばかり、姉ちゃんにまとわりついて。
 大好きな流美姉ちゃんを元気付けたくて。
 そうやって何も出来ず、纏わりついているうちに、姉ちゃんは死んじゃって。僕が保育園に行っているうちに、倒れてそのまま病院で死んじゃって。
 一人のまま、周りの悪口を聞きながら死んじゃって。あれだけ家に遊びに来ていたピートも、姉ちゃんがいなくなってからぱったり来なくなって。
 だから、僕はこの家のことも、この近所に住んでいる人のことも大嫌いになった。今でも続く実家に帰ることへの嫌悪感の原因が、それで。
 僕は姉ちゃんのことを忘れないようにしながら、一緒に過ごしたこの家のこと、忘れようとしたんだ。
 今の今まで。ずっと。ずっと。


〉〉〉なつへの扉【7】へ続く。
関連記事
スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

ご訪問ありがとうございます!
プロフィール
気ままに更新してます。 気にいっていただけるものがあったならこれ幸いです。

三日月幻夜

Author:三日月幻夜
よく「雰囲気大分違うけど、同じ人が書いたの?」って言われます。
色々あるので見てってください。

最新記事
最新コメント
カテゴリ(ツリーが開きます)
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

RSSリンクの表示
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。