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なつへの扉【4】

なつへの扉【4】


 流美姉ちゃんについて僕が覚えていることというのは、実はそう多くはない。今の僕が流美姉ちゃんについて記憶しているのは、僕が歳を重ねていくごとに小さい頃のイメージを元にして作り上げていった理想や憶測の混じった僕の心象と、家族から聞いた思い出と、そのふたつが入り混じったものであるのだと思う。
 まず姉ちゃんについて思い出すのは、煙草の匂い。
 流美姉ちゃんはよく、一人で煙草を吸っていた。
 今は僕の部屋になっている部屋。当時は姉ちゃんのものだった部屋のベランダに出て、物憂げに煙草を銜えている後ろ姿、そんな残像が時折、煙草の香りに紛れて、僕の元へやってくる。大好きだった姉ちゃんに遊んで欲しくて、でもそうやって独りでいるときの姉ちゃんの後ろ姿はなんだか切なくて、子供の僕は声をかけることが出来ず、気づいてくれるまでその後ろ姿を眺めていることが多かったのだ。
 そうやっている僕に気づくと、姉ちゃんはよく頭をかいた。隠れて煙草を吸っていた高校生が、その姿を見られてしまったときみたいな表情をして。
「どうした?」って言いながら、煙草を灰皿に押し付けて、近寄ってくるとまずはくしゃくしゃに頭をなでて、それから僕と遊んでくれた。
 姉ちゃんはポーカーが好きで、僕が最初に覚えたトランプでの遊び方がポーカーだったのも、姉ちゃんの影響だった。
 よく、ベランダのテーブルを使って、ポーカーをした。姉ちゃんは煙草を吸いながら、僕はジュースを飲みながら。
 お互い、負けるのが大嫌いで、一度始めるといつまで経っても「もう一回!」を言い続けて、中々勝負がつかなかった。
 それから、流美姉ちゃんは猫が好きだった。
 家の周りにいる野良猫を見つけると、すぐに姉ちゃんはその後を追いかけていこうとしていた。実際、追いかけていって、半日帰ってこなかったこともある。
 懐いている野良猫もいた。
 名前は確か、ピートだったはず。
 野良猫のくせに妙に太っていて、人の顔をじっとみつめてくる猫だった。
 彼はいつも一人でふらふらと僕の家の庭にやってきては、じっと二階の窓を見つめていた。そこに流美姉ちゃんがいるとわかっていたから。
 流美姉ちゃんはピートが来たことが分かると、すぐに庭に出て行って、買いだめしている猫缶を彼に渡した。嬉しそうな声で、ピートに話しかけて、しばらくピートを撫でて遊ぶのだ。まるでずっと一緒にいた飼い主と飼い猫みたいに、ピートと流美姉ちゃんはじゃれていた。
 僕もたまに姉ちゃんと一緒に庭に出て、ピートと遊ばせてもらった。ピートは気さくなやつだったから、誰にでも愛想よく対応して、僕にも擦り寄ってきた。当然というか何というか、並ぶと必ず流美姉ちゃんの方に寄っていったんだけど……。
 そんなピートと流美姉ちゃんは、よく夜になると連れ立って散歩に行っていた。どこに行っていたのか、それは分からない。僕も本当は付いていきたかったけど、両親はそれを良しとしなくて、いつも憮然として姉ちゃんを見送っていた記憶がある。ただ、夜の散歩に行く姉ちゃんの横顔は、僕の前では見せることがほとんどなかった、無表情だった。
 その無表情のわけを知ったのは、ずっと後のこと。
 流美姉ちゃんとの思い出。それはいつも家の中でのことだった。思えば流美姉ちゃんはいつも家にいて、僕が流美姉ちゃんと遊んでいた記憶も、家の中でのことばかり。車に乗ってどこかにいった記憶も、日中近所を散歩していた記憶もない。
 その理由を僕が知ったのは、姉ちゃんが死んで、ずっと経ってからだった。


〉〉〉なつへの扉【5】へ続く。
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よく「雰囲気大分違うけど、同じ人が書いたの?」って言われます。
色々あるので見てってください。

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